プラチナ・ジュエリーの国際的広報機関による情報サイト
2017/12/24
外で車が停まる音がした。夫が運転する軽四輪の音。わたしが椅子から立ち上がると、二代目の虎毛の猫も、それまで寝ていた炬燵ふとんの上からのろのろと起き上がった。
一代目は二十年生き、わたしの腕の中で大往生した。二代目はまだそれほどでもないが、確実に老い始めている。わたしたちと同じである。
玄関が開けられ、ただいま、と言う声が聞こえた。わたしは、おかえりなさい、と言いながら台所に向かう。シチューを温め直すためにガスの火をつける。
数年前、夫は外国に行くことを強いられる仕事をやめ、この地でもできる気楽な仕事を見つけてきた。朝家を出て、日暮れたころには戻ってくる。だから毎晩一緒に食事をとる。時にはふたりで長々とした晩酌が続く。思い出話に花が咲く時がいちばん楽しい。
いろいろなことがあった。嬉しいことも悲しいことも、あり過ぎて思い出せないほど。
晴れたり曇ったり。嵐になったり霧に巻かれたり。木枯らしが吹きすさび、木の葉が怖いほど舞い落ちた後でも、雲間からいきなり青空が覗く。凍りついた雪の上にも、そのうち穏やかな光がいちめんに射(さ)してくる。……そんな人生だった。
わたしはハレの日に、必ずプラチナのクロスのペンダントをつける。今夜も、雪うさぎの中から現れたペンダントが胸もとで光っている。おそろしいほど瞬く間に時が流れていったが、プラチナには一点の曇りも残されていない。ふしぎなほど。
今夜は積もるな、と夫が言いながら炬燵(こたつ)に入って来た。お、シチューか、うまそうだ。
クリスマスイブにシチュー、ってのもいいと思って。ね、ワイン、飲まない? いいね、飲もう。
動きまわるわたしの胸元でクロスのペンダントが揺れている。気がついているのかいないのか、夫は何も言わない。
つけたテレビ画面には、ちかちかと豪勢に瞬くニューヨークの巨大ツリーが映し出されている。猫が夫の膝にのぼっていこうとしたが、夫がワインのコルクを抜こうとして動いたため、しぶしぶ炬燵(こたつ)ふとんの定位置に戻って行った。
わたしはペンダントに左手の指を添えながら、ふと窓を見た。雪の降りしきる闇を湛(たた)えた窓ガラスに、二人と一匹のいる、温かく凪(な)いだ風景が映っているのが見えた。