全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など
さまざまな空間で、
世界各国の映画を上映している
移動映画館「キノ・イグルー」。
2003年に中学時代の同級生と活動を始めて以来
一度も営業活動をしていないという代表の有坂 塁さんの
活動スタイルや人となりに迫ります。
――20年以上に渡ってさまざまな場所で上映会を開催し、映画の魅力を伝える活動を続けている有坂さん。映画デビューはいつなのでしょうか。
7歳のとき、母に連れられて観た『グーニーズ』が最初でした。映画を見ながら一緒になって冒険している感覚が楽しくて、母に「もう一度観たい!」とお願いしたくらい。それならと、連れていかれたのが『E・T』。スクリーンにE・Tが登場した瞬間の感想は…「怖っ!」。リアルな姿形がどうにも受け入れられず、終わりまで観ることができませんでした。そこから映画が嫌いになっちゃって。同級生たちがはまっていたジブリもジャッキー・チェンも見ずに少年時代を過ごした原因はスピルバーグ監督にあるんです(笑)。
――その後、映画の魅力にのめり込んだのにはどんなきっかけが?
専門学生だった19歳のとき、当時お付き合いをしていた女の子から映画を観に行こうと何度も誘われて。根負けし、観に行ったのが『クール・ランニング』。冬季オリンピックのボブスレー競技にジャマイカのチームが初出場する実話がベースとなった作品なのですが、これが思った以上に感動的で。思い切り笑えて、思い切り泣ける内容はもちろんのこと、照明が落とされた中で作品に没頭できる映画館という空間自体も心地よくて。さっそく翌日から映画館通いが始まりました。ハリウッド映画からはじまり、チャップリンなどのサイレント映画や日本映画の名作など1日1本、映画を見続け、ついには新宿のレンタルビデオ店でアルバイトをすることに。
――好きが高じてとうとう仕事として関わるようになったのですね。
お店には、小学生から女子高生、おじいちゃん、強面のお兄さんまで、いろんなお客さんが来て、「おすすめの映画を教えてください」と聞いてくるんです。それで、どんな映画が観たい気分なのか、ふだんどんな映画を観ているのかをヒアリングしたうえで、作品を紹介。すると数日後、「とってもよかったです!また教えてください」と笑顔で返却に来てくれる。映画を通して人と信頼関係が結べるなんて驚きでした。映画を見続けてきたことで人の役に立てる。そう思えたことが自分にとっての喜びとなり、今の活動へと繋がっていきました。
――2003年からは、「キノ・イグルー」として、さまざまな空間で世界各国の映画を上映する活動をスタートされます。
レンタルビデオ店で一緒だったバイト仲間が作った20席くらいの小さな映画館を借りて、トップレアなフィルム映画を自主上映する「シネクラブ」をはじめたのが最初でした。そこから、映画を観る場所の選択肢を増やしたいという思いが強まり、雑貨屋さんやカフェなどで移動映画館を始めるように。次第に口コミで広がって「うちでも上映会をしたい」というオファーが増えていき、あらゆるお店、企業、自治体からお声をかけて頂けるようになりました。
――これまでに開催した上映会で特に印象的だった企画について教えてください。
北海道の層雲峡温泉で開催される「氷瀑まつり」での上映会は、氷のドーム内で映画を観るというかなりレアな内容でした。外気温は氷点下13℃。事前の打ち合わせで、会場となっている場所は春が来れば野生動物が自由に行き交う姿を見られると聞き、思いついたのが動物たちをテーマにした短編のアニメーション作品3本。「今は冬眠して姿を見せない動物たちに思いを馳せてほしい」というメッセージを伝えたうえで上映スタート。10分ちょっとの上映だったのですが、子どもたちも真剣に見てくれるなど、どの参加者も前のめり状態。ときには笑い声も湧き起り、想像以上の盛り上がりでした。氷で閉ざされた圧倒的な空間に温かな血が通ったような感覚が今でも忘れられません。
層雲峡温泉 氷瀑まつり
写真提供:キノ・イグルー
――主催者とよく話し合い、その場所の魅力や特徴を理解していることが、「キノ・イグルー」の上映会が人気を集める秘訣なのですね。
何を上映するかよりも、どこで、どんな人たちと企画するかがとても重要。私が相手を知る手段といったら、やっぱり映画です。最初の打ち合わせでは、担当する皆さん一人ひとりに、好きな映画を私のノートに書いてもらうんです。それまでは堅い表情をしていた方たちも、いざペンを持ってノートに向かうと、昔のことを思い出しながらニヤけたり、照れ笑いしたりと思わず、素の部分が出る。ときには「部長、トムクルーズが好きなんですか⁉」なんて、のぞき見した社員から突っ込みが入ると、一気に場が和む。その表情や空気感を見るのが大好きで。自分の知識をひけらかしたいわけでも、映画で金儲けしたいわけでもない。ただただ、「映画って面白いよねー!」と言い合えるのが嬉しくて。私にとって映画は大切なコミュニケーションツール。ノートに書いてもらった人数は4000人を超えています。
――有坂さんが自身に「プラチナ・メダル」にちなんだ最上級の栄誉を贈るとしたらどんなことでしょう。
6年ほど前、恵比寿ガーデンプレイスの「ピクニックシネマ」で雨のなか上映を続行したときのことかな。会場の広場には屋根もあるため、とりあえず上映をはじめたものの、中盤で雨足が強くなり一旦中断。このまま雨風が強くなれば上映中止もやむなしという状況だったのですが、私としてはそれは避けたくて。
というのも、この日の上映作品が『雨に唄えば』だったから。「今のシチュエーションにぴったり!」と考えていたのはその場にいたみんな同じだったようで、中断している間、700人ほどいたお客さまの誰一人として帰らなかったのです。中止か続行かの決断を任されていた私が、祈るような気持ちでスマホの雨雲レーダーを見ていると、雨雲の流れが変わるという奇跡が!上映の再開を告げると、会場中から大歓声に指笛まで沸き起こって。ジーン・ケリー演じるドンが、どしゃぶりの雨の中で「Singin’ in the Rain」を歌い踊るシーンでは、みんなが一緒になって口ずさむ。その光景に鳥肌が立ちました。無事にフィナーレを迎え、ステージ上で「世界初の『雨に唄えば』4D上映いかがでしたか?」とあいさつしたら、ものすごい拍手!あんなに称賛を浴びたのは人生ではじめてです。
行き先を変えた雨雲、雨に濡れても帰らなかったお客さま、続行の決断を支持してくれた関係者、そして雨の日にぴったりの映画を作ってくれた監督や役者さん、みんなにプラチナ・メダルを贈りたいです。
――日々、映画の魅力を伝えている有坂さんにとって、ささやかなご褒美とは?
私の場合、日々、自分にご褒美をあげているかも(笑)。例えば、映画館で1日1本、映画を観るというのもそうですし、会いたい人にはすぐに連絡して会いに行く。どれも自分にとっては何よりのご褒美です。ご褒美を贈るとするなら、むしろ、好きなことをのびのびとさせてくれている妻にかな。以前、相方の渡辺と「俺たち、奥さん孝行しなきゃだよね」となり、両方の家族で待ち合わせをし、そこから新幹線に乗って京都へ行き、祇園で食事をするというサプライズを仕掛けました。私たちからの感謝を込めたご褒美、無事に喜んでもらえました。
――ジュエリーや映画は日常を豊かにするものですね。多くの人に映画をどのように楽しんでもらいたいですか?
好みではない映画やふだんは見ないジャンルにもぜひ挑戦してもらいたいです。観ているうちに、役者さんの演技や衣装など、面白いと思えるものが何かしら見つかるはず。発見を楽しむことで自分の引き出しが増え、新しい世界が広がり、人としての成長を感じることもできるので、おすすめです。
――ぜひ、ジュエリーが印象的に登場するおすすめの映画3本を教えてください。
まずは『インサイド・ザ・ドリーム』(2022年)。ローマのハイジュエラー「ブルガリ」のクリエイションにフォーカスしたドキュメンタリー映画でAmazonプライムで配信されています。この作品で石の買い付けから制作に至るまで、ハイジュエリーメゾンの裏側を知ったところで、次に観て頂きたいのが『華麗なるギャツビー』(2013年)と『マリー・アントワネット』(2006年)。『華麗なるギャツビー』で使用されたジュエリーはティファニーが特別に製作したもの。バズ・ラーマン監督が描くゴージャスな世界観にジュエリーがどう落とし込まれているかといった視点で見るのも面白いです。『マリー・アントワネット』は、当時はありえないロックやR&BをBGMに流したり、クローゼットにコンバースがあったりなど、監督のソフィア・コッポラならではのこだわりが話題になりました。そんな彼女が“現代”の感覚で、ジュエリーをファッションのひとつとしてどのようにコーディネートしているかも見どころです。物語に一層の輝きを添えるジュエリーに注目しながら、それぞれの作品をぜひ楽しんでご覧ください 。
2003年に中学時代の同級生である渡辺順也氏とともに
移動映画館「キノ・イグルー」を設立。
東京を中心に、全国各地のカフェや美術館など、あらゆる場所で
映画上映イベントを開催。1対1で行う映画カウンセリングや、
毎朝思いついた映画をSNSに投稿する「ねおきシネマ」など、
自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
Instagram @kinoiglu
※2023年4月取材
プラチナ・ジュエリーの国際的広報機関プラチナ・ギルド・インターナショナルが、貴金属の最高峰であるプラチナを500 グラム以上も使用して製作した特別な宝飾メダルです。
素材 | Pt999(純プラチナ) |
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総重量 | 565.84グラム (留金具2個含む、リボン別) |
サイズ | 直径 880 ミリ、厚さ 6 ミリ |
参考価格 | 約 1000 万円(非売品) |
素材: Pt999(純プラチナ)
総重量: 565.84グラム (留金具2個含む、リボン別)
サイズ: 直径 880ミリ、厚さ 6ミリ
参考価格:約1000 万円(非売品)